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認知症の親の不動産売却はどう進める?成年後見制度との関係と具体的な手続きを解説

認知症と不動産売却

木下 純也

筆者 木下 純也

不動産キャリア36年

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親が認知症になり、これからの介護や施設入所の費用を考えると、自宅などの不動産を売却すべきか悩む方は少なくありません。
しかし、認知症の親名義の不動産は、子どもや親族の判断だけで簡単に売ることはできません。
なぜなら、不動産売買契約には意思能力が必要となり、その有無や程度によって契約の有効性が大きく左右されるからです。
また、対応を誤ると、後から契約が無効と判断されたり、親族間のトラブルや訴訟に発展したりするおそれもあります。
そこで本記事では、成年後見制度との関係を中心に、認知症の親の不動産売却の基本的な考え方と具体的な進め方、さらに早めに検討したい対策まで、分かりやすく解説していきます。

認知症の親名義不動産はなぜ勝手に売れないのか

不動産の売買契約を結ぶためには、契約内容とその結果を理解し、自分の意思で判断できる「意思能力」が必要とされています。
認知症になると、この意思能力が低下し、不動産を売却した場合に本当に自分の生活にどのような影響があるかを判断することが難しくなることがあります。
そのため、認知症の疑いがある方が行った不動産売買契約は、後から「意思能力がなかった」と評価されて無効と判断されるおそれがあります。
家族としては早く売却して資金を確保したい場面でも、意思能力の有無を慎重に確認することが重要です。

もっとも、認知症と診断されたからといって、直ちにすべての契約が無効になるわけではありません。
裁判例では、契約時点の症状の程度や、契約内容の難しさ、説明の受け止め方などを総合的に見て、その時点で契約の意味と結果を理解できていたかどうかが判断されています。
具体的には、本人が居住している不動産を著しく不利な条件で売却させられた事案で、認知症の影響により契約内容の不利益を理解できなかったとして無効とされた例があります。
このように、認知症の進行度と契約内容の重要性が組み合わさって、有効か無効かが個別に判断されるのが実務上の考え方です。

さらに注意したいのは、子どもや親族が「家族なのだから代理で署名してよい」と考えてしまうケースです。
民法上、配偶者や子どもというだけでは、不動産売買契約について本人を代理する権限は認められておらず、無断で署名すると無権限による契約として無効となる可能性があります。
また、後に成年後見人が選任された場合、過去の売買契約について「本人は意思能力を欠いており、さらに家族にも代理権はなかった」と主張して契約の無効や登記の抹消を求める紛争に発展した裁判例も報告されています。
子どもが善意で動いたつもりでも、大きなトラブルや損害賠償問題に広がるおそれがあるため、自己判断で署名や押印を進めることは避ける必要があります。

ポイント 内容 注意点
意思能力の要件 契約内容と結果を理解できる判断能力 認知症で低下すると契約無効のおそれ
進行度と有効性 症状の程度と契約の重要性で個別判断 著しく不利な契約は無効認定の可能性
家族署名の危険 法定代理権がなければ無権限契約 後に登記抹消や損害賠償に発展するリスク

成年後見制度のしくみと種類(法定後見・任意後見)

成年後見制度は、判断能力が不十分になった人の権利や財産を法的に保護し、生活を安定させることを目的とする制度です。
法定後見では、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の区分が設けられ、家庭裁判所が適切な類型と支援内容を決めます。
これにより、日常生活の支払いから不動産など重要な財産行為まで、必要な範囲で代理や同意、取消しによるサポートが行われます。
認知症の親名義の不動産についても、この制度を前提に売却可否が判断される仕組みになっています。

法定後見は、すでに判断能力が低下している人を家庭裁判所が保護する仕組みであり、「後見」「保佐」「補助」のいずれかが選ばれます。
一方、任意後見は、判断能力が十分なうちに本人が将来に備えて契約を結び、判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じる制度です。
そのため、認知症が進行してから初めて対応する場合は法定後見、元気なうちから将来の不動産の管理や売却方針まで決めておきたい場合は任意後見を検討することになります。
どちらの制度も家庭裁判所の関与が前提であり、子どもだけの話し合いで決めることはできません。

成年後見人や保佐人、補助人、任意後見人には、財産管理や身上保護のための代理権や同意権、取消権が与えられます。
特に居住用不動産を売却する場合、法定後見人は家庭裁判所の許可を受けなければならず、許可を得ない売却は無効と判断されるおそれがあります。
任意後見の場合も、契約内容によって不動産に関する権限の範囲が変わるため、事前にどこまで任せるかを慎重に決めておくことが重要です。
このように、成年後見人等の権限と家庭裁判所の許可の要否は、不動産売却の可否や手続きの流れに直結するポイントになります。

区分 利用開始の目安 不動産売却に関わる特徴
法定後見 判断能力が低下した段階 家庭裁判所選任の後見人が対応
任意後見 判断能力があるうちに契約 契約内容に沿って不動産管理
共通ポイント 家庭裁判所の関与前提 居住用不動産は許可審査対象

成年後見制度を利用した認知症の親の不動産売却の流れ

まず、認知症の親の不動産を成年後見制度を利用して売却するためには、家庭裁判所に後見開始の申立てを行い、成年後見人が選任されることが出発点になります。
申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族などに認められており、家庭裁判所に備え付けられている申立書式を用いて行います。
申立ての際には、診断書や戸籍関係書類、財産目録などが必要とされ、裁判所はこれらを基に、本人の判断能力や支援の必要性を調査します。
そのうえで、裁判所が適切と判断した人を成年後見人として選任し、その審判が確定することで、成年後見人が正式に親の財産管理を行えるようになります。

次に、成年後見人が選任された後、不動産売却を進める際には、単に売買契約を締結すればよいわけではなく、特に本人の居住用不動産である場合には、家庭裁判所の許可が必要とされています。
家庭裁判所は、居住用不動産の処分許可申立書とともに、売却予定の不動産の全部事項証明書や評価証明書、不動産会社が作成した査定書などの資料の提出を求めています。
裁判所は、本人の生活状況や介護の必要性、代替住居の確保状況などを総合的に考慮し、売却が本人の利益に適うかどうかを審理します。
許可が出た後に、成年後見人の名で売買契約を締結し、所有権移転登記を行うことで、法的に有効な売却が完了します。

最後に、売却代金の管理と親の生活費・介護費への充当についても、成年後見制度特有のルールがあります。
成年後見人は、売却代金を本人名義の預貯金や後見制度支援信託などで適切に管理し、生活費や介護サービス利用料、医療費など、本人の福祉や療養看護のために支出することが求められています。
また、成年後見人は定期的に家庭裁判所や成年後見監督人に収支状況を報告する義務があり、売却代金の使い道についても客観的に説明できるよう、領収書や通帳記録を整理しておく必要があります。
このように、売却後も透明性のある財産管理を続けることで、親の生活を長期的に支えつつ、親族間のトラブルを防ぎやすくなります。

段階 主な手続内容 家族が意識したい点
申立て準備 診断書や財産資料収集 財産全体の把握と整理
後見人選任 家庭裁判所での審理 候補者の負担や適性確認
不動産売却 処分許可申立てと契約 本人利益と住まいの確保
代金管理 生活費や介護費への充当 支出記録と定期的な報告

成年後見制度以外の選択肢と早めに検討すべき対策

認知症によって判断能力が低下すると、不動産の売却や賃貸などの重要な手続きが制限されやすくなります。
そのため、判断能力が十分なうちに、任意後見契約や家族信託、生前贈与などを比較検討しておくことが重要です。
法務省の資料では、任意後見制度が「本人が十分な判断能力を有する時」に将来の後見人や事務内容をあらかじめ定めておく仕組みとして整理されています。
また、家族信託は、信頼できる家族に財産管理を託し、認知症発症後も柔軟な管理や処分を可能にする手段として紹介されており、後見制度とあわせて検討する価値があります。

任意後見契約は、公正証書で将来の財産管理や身上保護を委ねる相手と内容を定める制度で、後見監督人が選任されて初めて効力が生じます。
一方、家族信託は、信託契約によって不動産などを受託者に移し、受託者が目的に沿って管理や売却、賃貸などを行う仕組みで、認知症対策として柔軟な資産活用ができる点が特徴です。
生前贈与は、将来の相続を見据えて不動産や預貯金をあらかじめ子どもなどに移転する方法ですが、成年後見制度と異なり、贈与後の財産は原則として贈与を受けた人のものになるため、慎重な検討が求められます。

さらに、自宅が空き家化することを防ぐには、認知症リスクだけでなく、今後の住まい方や介護方針も含めて家族間で早めに話し合うことが重要です。
内閣府の高齢社会白書や認知症施策推進大綱では、認知症になっても地域で安心して暮らせる環境づくりが重視されており、住まいの確保や生活支援の視点からの準備が求められています。
そのうえで、将来の介護費用や施設入所の可能性を見据え、売却か賃貸かの方向性を家族で共有し、必要に応じて専門家の助言を受けながら制度選択を行うことが、後のトラブルや資産凍結の防止につながります。

対策の種類 主な目的 不動産に関する特徴
任意後見契約 将来の財産管理委任 売却時に後見監督体制
家族信託 柔軟な資産管理活用 信託目的に沿う処分
生前贈与 相続前の財産承継 贈与後は受贈者管理

まとめ

認知症の親名義の不動産を売却するには、本人の意思能力や成年後見制度への正しい理解が欠かせません。
勝手に署名してしまうと契約が無効になったり、親族間トラブルに発展するおそれもあります。
当社では、成年後見制度を利用した売却の流れや、任意後見・家族信託などの事前対策まで丁寧にご説明します。
「うちのケースで何から始めればいいのか」を一緒に整理しますので、まずはお気軽にご相談ください。

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